大工の技術向上と
労働環境改善の取り組み
大工の腕は、住宅の品質、性能、造作などを大きく左右します。プレカット材や既成建具など、合理化、省力化が進んだとはいえ、今でも大工の技術が現場を支えています。北海道ビルダーズ協会は、会員工務店と連携し、大工技術を実践的に習得できる機会をつくるなど、若手大工の育成に取り組むとともに、大工の社員化などを含めた雇用の安定化、キャリアアップシステムの導入に取り組んでいます。このページでは、こうした活動についてお伝えします。
住宅の建築現場は、大工の高齢化や若手の後継者不足が深刻化しています。背景には、材料加工のプレカット(機械)化による手作業の減少や、住宅の価格競争、大工の不安定な雇用形態が要因としてあげられます。
大工技術の重要性
プレカットによって、大型の機械で一気に材料を切断したり、接合部の加工ができるようになり、工期短縮と品質の均一化が可能となりました。このようにプレカットは時間と手間、材料ロスの軽減がメリットです。一方、1つひとつの木の特徴を生かした家づくりや、形の異なる部材の接合、細部の意匠などは大工の技術が不可欠です。また、リフォーム工事は、大工の技術が新築以上に必要だと言われています。また、技術面ばかりでなく、安全対策、建て主や近隣の方々への気配りなども求められています。
雇用を安定化させることが
後進の育成につながる
大工の不安定な雇用形態も、担い手不足の要因になっています。社員制度の下、安定した雇用体制で働く大工は非常に少なく、現場ごとの「請負い」がほとんどです。機械化が進み現場の大工仕事自体が減り、経済の低迷が続く中で現場に割り当てられる費用も減っており、昔のように大工の親方が、賃金まで世話をしながら若手を育てる風習が無くなりつつあるのです。
北海道ビルダーズ協会は、こうした現状を打開し、後進の育成を進めるため、会員同志で大工の社員化を呼びかけています。雇用保険や年金などの社会保険制度を整備し、安心して働ける環境の下、若手大工が育つ素地を業界全体に広げて行きたいと考え、実践しています。
建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入も
2019年からは、正当な評価による技能労働者の待遇改善や技能の研さんが可能な環境を整えることを目的に、大工や職人など技能労働者の就業履歴や保有資格、社会保険加入状況などを、業界統一のルールに基づき登録・蓄積する「建設キャリアアップシステム」の導入研修も行っています。大工職人の価値基準を明確化し、キャリアに見合った労働対価が得られる仕組みづくりは、北海道ビルダーズ協会の責務のひとつだと考えています。
また、この技能評価と連動し、工務店の施工能力等を評価し、見える化する「工務店評価システム」の創設も準備中です。建設業許可の有無や営業年数、社員数、技能労働者数、関連法令の遵守・違反状況などの基礎情報に加え、新築・リフォームの施工実績や、若者・女性技能者の育成・確保、防災活動への貢献などの情報を点数化して公表することで、エンドユーザーの工務店選びや、技能労働者の待遇改善と人材投資の促進、業界に対する信頼・安心感の向上を目指しています。
北海道ビルダーズ協会の
大工育成事業
北海道ビルダーズ協会は、行政のサポートの下、年間で多くの大工育成事業を行っています。ここからは、「木造住宅・都市木造建築物における生産体制整備事業」のうち、大工技能者等の担い手確保と育成事業についてご紹介します。
1. 育成事業
大工技術の継承は、各社でも取り組まれていますが、日々の作業もある中で全てを伝える体制を整えるのは困難な状況です。また高齢化が進む大工の世界で、同世代の仲間づくりも難しくなっています。そうした経緯から北海道ビルダーズ協会は、会員工務店の見習い大工や職業訓練校に通う生徒を対象に、座学や実技を通じて、実践的な技能を習得できる育成事業に取り組んでいます。(活動内容は年度によって変わることがあります)。
全体概要(令和3年度)
実施地域 | 北海道 | |
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事業期間 | 令和3年7月5日~令和4年1月26日(約6ヵ月) | |
受講者数 | 実数 | 育成:50名(男性47名、女性3名) |
受講者 属性 | 種別 | 大工:(見習いを含む)50名 |
年齢構成 | 20歳未満:3名 20-24歳:14名 25-29歳:5名 30歳代:9名 40歳代:19名 | |
座学・ 実技研修 | 座学 | 14回(ポリテク会場:8回、旭川会場:2回、猿払会場2回、網走会場:2回) |
実技 | 6回(札幌会場:6回) | |
計 | 20回 |
研修活動の概要(令和3年度)
- 大工育成委員会 4回(委員10名)/全道各地の工務店と技専・高校の担当者を委員とし、各研修会の計画と受講者の募集などを行いました。
- 新人大工座学研修会 8回(座学研修)
- 技能向上研修会 6回(実技研修)
- 基本技術研修会 6回(座学研修)
- 大工育成実態調査 1回 /全道の会員工務店に対し大工の雇用に対するアンケートを行い、年齢や雇用形態・充足度などを調査し、昨年との比較を行いました。
新人大工育成プログラムの研修
ポリテクセンター北海道の新人大工育成プログラムの研修は、平成30年4月より開始し4年が経過しました。この4年間で36名の新人大工入職者に対し31名在職中、在職率86%と、高い在職率になっています。これは、基本技能を学び直し、実質的に技能が向上したことや、会社の垣根を超えて一緒に切磋琢磨し、悩みを分かち合える同世代の仲間が出来たことも大きな要因になっているようです。
新人大工座学研修会
1年~2年目となる新人大工が対象。北海道の住宅建築に不可欠な省エネ技術を中心に各種構法と大工技能に関する基礎知識が学べる研修会です。令和3年度は、「木造住宅の構造と力の流れ」「建築大工の技能①」「大工に求められる能力」「北海道の住宅建築に必要な省エネ技術」「建築大工の技能②」「住宅の省エネルギー1」「住宅の省エネルギー2」「窓の性能について」といった内容で、計8回の座学講習を行いました。大工技能の基礎知識に関する確認テストで、2年目となる受講者の理解度に一定の向上がみられ、継続することの大切さを実感できています。
技能向上研修会
1級・2級技能士の実技課題を中心に規矩術の基礎知識と現寸図の作成・墨付け・加工・組立までの研修を行います。令和3年は札幌にて、計6回の技能向上研修会を行いました。さまざまな工具を使った実践的な内容で、すぐに現場でも生かせる技能向上が目的です。建築大工技能士1級・2級の技能検定に参加した受講者が、ほぼ全員合格レベルに達していることを確認できました。
基本技術研修会
建築大工として必要な安全教育(丸のこ・足場・木造組立・安全帯)などの研修会です。広い北海道ですが、札幌の研修会に参加が難しい地域にも出向いて実現しています。令和3年度は旭川、猿払村、網走にてそれぞれ2日ずつ、研修会を行いました。安全作業に対する確認テストで、受講者全員の80%以上の理解度を確認することが出来ています。
2. 担い手の確保
新人大工の育成と同じくらい大切なのが、新人入職者が働き続けられる環境の整備と教育方法です。北海道ビルダーズ協会では、専門家を招いた若年技能者への教育方法をはじめとした様々なプログラムで、育てる側となる工務店経営者や現場責任者など中堅以上の管理者のキャリアアップを支援しています。
全体概要(令和3年度)
実施地域 | 北海道 | |
---|---|---|
事業期間 | 令和3年7月1日~令和3年12月7日(約3ヵ月) | |
受講者数 | 実数 | 確保:42名(男性38名、女性4名) |
受講者 属性 | 種別 | 大工関係者:31名 その他(経営者):11名 |
年齢構成 | 20歳代:26名 30歳代:2名 40歳代:6名 50歳代:4名 60歳~:4名 | |
座学・ 実技研修 | 座学 | 3回(技専会場:1回、網走会場:2回) |
実技 | 0回 | |
計 | 3回 |
研修活動の概要(令和3年度)
- 職業・技能研修会 1回(座学研修)
- キャリアアップ研修会 1回(座学研修)
- 指導者研修会 1回(座学研修)
キャリアアップ研修会
令和3年度は網走で開催。工務店経営者を中心とする管理者を対象に、建設キャリアアップシステム(CCUS)について説明し、CCUSへの対応の必要性やメリットを認識していただくことが出来ました。また、登録についての具体的な問い合わせもあり、導入に向けての一歩を進めることができました。
指導者研修会
令和3年度は網走にて、建築大工の職長と管理者を対象に、スポーツコーチングメソッド研修を行い、若年者との接し方や指導の仕方、また、TWIによる「仕事の教え方」「人の扱い方」などの研修会を開催。コーチングとティーチングの違いを理解し、若年技能者への接し方を認識していただくことが出来きました。
職業・技能研修会
令和3年度は札幌高等技術専門学院にて学生を対象に、実際の工務店の仕事内容や工事現場の様子などと、現場で必要とされる大工の技能に対する研修会を行いました。個別の質疑対応を行い、実際の職場の様子も直接学生伝えることによって、就職への架け橋となるインターシップ希望者が増えました。
大工育成の取組みにより、工務店の意識が向上し、雇用改善や定着率の向上につながっています。また、入職者を増やすためには、働きやすく見える化された職場環境の整理、人員の確保の取組みが急務です。
北海道ビルダーズ協会は、今後も大工の育成を通じて、技術の継承とともに大工職人の労働環境の改善に努めていきます。